○パイロットが蒔絵万年筆の最高峰のブランドとして展開するのが、NAMIKI(ナミキ)です。もちろん、創業者、並木良輔氏の苗字から来ています。それを支えているのが国光会です。後に人間国宝となる松田権六氏を中心として、蒔絵万年筆の研究・発展・品質向上のための創作集団として結成されました。「相撲が日本の国技であるが如く、蒔絵は御国の光であるという意味」で名付けられ、その伝統を今に引き継ぐ誇り高き職人集団です。彼らのお蔭で、世界に誇るべき蒔絵万年筆が生み出されています。 〇このペンは、ナミキの作品群の中のユカリコレクションの一つ、「Nightline(ナイトライン)」です。ユカリコレクションは、10号ペン先を用い、金属軸(おそらく真鍮)に漆を施しますが、大きく2つの方向性があると思います。1つは、日本の四季の移り変わりの美しさ、特に花に焦点を当てて、研出平蒔絵の技法で、最も好まれてきた伝統的画題を表現するものです。2つは、使用される様々な場面で違った面白みを生み出す螺鈿を駆使する表現です。このペンは、もちろん、後者ですが、短冊状の螺鈿が多く施され、螺鈿のないところには金粉が蒔かれる抽象的なデザインです。もともとの狙いだと思いますが、螺鈿は見る角度によって色が変わるところ、このペンは、緑色と紫色が対照的に煌めきます。個人的にはユカリコレクションの中で最も美しく、これでもかと螺鈿の迫力と魅力を訴えかけるペンだと思っています。 〇ナイトラインは、既に廃番となっています。この後継モデルが同様に螺鈿を多用するムーンライトだと思われますが、ナミキのHPを参照したところ、既に掲載されておらず、これも現在は廃番となってしまったようです。貝片を1枚1枚丹念に貼り付け、漆で塗り固めてから研ぎ出す、細かく根気の必要な職人技であるため、その多用がコスト的に見合わないとされてしまったのでしょうか。まことに残念に思います。 〇ニブサイズは、Bです。現在のユカリコレクションは2色の染め分けニブですが、金一色のすっきりしたデザインで、もちろん、NAMIKIの刻印があります。今回、改めて、パイロットブラックを使って付けペンで試し書きをし、スムーズに書けることを確認しました。もちろん、その後、綺麗に洗浄しました。大きなペンポイントが貴重なので、全くの未調整のままで削ったりはしていません。螺鈿万年筆は、ゆったりと書くのが良い気がします。実用的にはやや太くも感じますが、大らかに書いて楽しむのも良いのではないでしょうか。 〇インク充填方法は、カートリッジ・コンバーター方式です。蒔絵万年筆といった高級万年筆用の、黒色軸のコンバータ70が付属します。インク吸入に支障はありません。 〇ペンの大きさは、同じく10号ペン先を使うパイロットカスタム742程度かと思っておりましたが、比べてみると、一回り小さく、むしろ、5号ペン先を使うパイロットカスタム74サイズです。金属軸のため、重みがあり、大きめのペン先が使われていることから、螺鈿万年筆にふさわしい、小ぶりながら中身のつまった、豪華で贅沢なペンとの印象を改めて持ちました。重さを量りましたが、コンバータを装着しインクを入れないで32.5gでした。インクを吸入した場合、およそ1g程さらに重くなります。 ○作家の銘は、金文字で国光会の横に、漢字一文字で「悦」と読め、その下に赤いサインがあります。パイロット社OBの知人に確認いただいたところ、中山悦子氏とのことです。国光会は既に辞められていて、現在の国光会の作家一覧を見ても、この銘の方はいらっしゃいません。 〇当オークションにて未使用新品とされたものを2019年3月に入手しました。2004年10月に都内の万年筆専門店から購入された記録がありましたが、さらにパイロットの確認により製造は1997年4月と判明しましたので、既にその時点で20年以上経過していたことになります。以後、2回程インクを入れました。最初は、2019年8月にパイロットブラック、次は、2021年1月にパイロット布袋尊です。使用後は、その都度、綺麗に洗浄し、大切に保管してきました。 〇螺鈿の状態ですが、入手当初から、経年のためか、くすんだ曇りのようなものが表面にあり、煌めくという期待が大きかっただけに少々がっかりしました。また、螺鈿が剥がれているように見えるところもありました。古いもので仕方がないと思っておりましたが、その後、磨き直せば綺麗になるのではないかと教えていただき、2021年7月に、大手文具店を通じてパイロットに修理・調整をお願いしました。3か月後には螺鈿の一部張り直し補修及び本体の磨き直しが終わって見事復活して戻ってきました。費用は5万4千円もかかってしまいましたが、煌めくという表現がぴったりの、キラキラ輝く状態になり、本当に綺麗になりました。現状も、綺麗な状態を保っており、傷等もなく、大変状態は良いと思っています。ただし、首軸と接する部分の螺鈿が1周する形で白っぽく見えるところがあります。角度を変えると緑色なり紫色に光りますので、見え方の違いとも言えますが、気になりましたので、パイロットに改めて確認してもらいました。螺鈿の剥がれはなく、その意味で修理を要するものではないとのことです。色味が白っぽく見えることについては、漆を刷り込み、乾燥させて磨き上げる作業を繰り返してもらいましたが、変化はありませんでした。インクの影響で変色したなど、外的要因の可能性もあり得るようですが、別の漆の専門家に知人を通じて確認してもらったところでは、そうした変色は経年も含め、そもそも考えにくいとの見解でした。結局、経年で変色したのか、何らかの外的要因で変色したのか、最初からそうした作りだったのか、はっきりしません。 ○入手した当時の紙類、箱類全て一式揃っています。ただし、上蓋にNamikiのマークの入った木箱は概ね綺麗ですが、紙製の外箱には若干の汚れもあります。また、ナミキのシールが張られたインク瓶は、未開封で中にはブラックインクが入っていました。しかし、経年劣化の故か、少々成分が分離しているようにも見え、インクとして価値がないどころか、万年筆に危険かも知れず、貴重なナイトラインに使うわけにはいかないと思いました。さらに、インク漏れが生じて汚れても困ると思い、インク瓶は、中身を廃棄し、綺麗に洗浄しました。なお、一般に、ナミキブランドのインク瓶でも特別なブラックインクが入っているわけではなく、中身は、通常のパイロットの黒インクだそうです。このインク瓶のデザインは秀逸であるだけでなく、リザーバーも入っていて極めて実用的です。パイロットのお好きなインクを入れてナイトラインへのインク吸入に十二分にご活用いただき、筆記を楽しんでいただければと思います(なお、付属の注意書きで、長期間、筆記具としての機能を良好に発揮させるため、ナミキブランド(すなわりパイロット)のインク使用を推奨しています。)。 ○このペンの出品は相当迷いました。修理等の手間もかけ、思い入れのあるペンです。しかし、所有し、時折眺めて楽しんでいるうちに、かつてほどの熱は冷めたということでしょうか、自分の中では満足感があって、お嫁に出してもいいと思えるようになりました。ペンの総数管理の中で、所有万年筆の整理を迫られてもいましたので、出品を決意した次第です。 〇ナイトラインの販売当時の定価を確認しようとしましたが、わかりませんでした。因みに同等の価格だったのかわかりませんが、後継と思われるムーンライトは、自分がたまたま持っていた2018年のナミキのパンフレットでは、20万円(税込21万円)でした。ナイトラインは、滅多に見かけない希少品である上、かなりの人気があることは確かでしょう。海外での出品例では、考えられない程の高額だったりします。しかし、そもそも、なかなか国内市場に出てきませんので、取引実績も少なく妥当な価格がいくらなのかよくわかりません。さらに美品とは言え、中古品であり、一部、螺鈿に白っぽく見える部分があることをどう評価するかがあります。そうしたわけで、開始価格をどうするか相当迷いました。結局、入手価格より相当低い額となってしまうものの、切りよく10万円とし、最低落札価格も設けないこととしました。お値打ちな価格だと思いますので、是非、興味を持っていただき、入札をご検討いただけると幸いです。さらに、実用品として末永くご愛用いただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。 |
落札価格 | 525,000円 |
入札件数 | 21件(入札履歴) |
商品の状態 | 目立った傷や汚れなし |
発送方法 | おてがる配送宅急便 |
発送地域 | 千葉県 |
終了日時 | 2024年3月3日 23時24分 |
出品者 | ろくりんぱぱ (評価) |
オークションID | x1126298781 |